寿司屋でのしゃもじとの出会い

1997年の夏のことである、大山(当時社長、現会長)は馴染みの寿司屋で目の前の板前たちの動きを見るともなく眺めていた。板前は使い込んで古びた木製しゃもじを器用に使いこなしている。そしてあることに気づく。「しゃもじにご飯が全くくっつかない…なぜだろう…。」寿司屋が使い込んできたそのしゃもじの表面には、柔らかい木質部分が削られ木目だけが筋のように浮き出ている。ひょっとするとこの凸凹があるザラザラした表面にご飯粒がくっつかないヒントがあるのではないか。

プラスチック製のしゃもじは主力製品の一つだった、表面がツルツルしていてご飯粒がべったりとくっつくものだったが、クレームが来るようなことはなかった。しゃもじにはご飯がくっつくのが常識だったのである。しゃもじは戦後、木製からプラスチックになっていったが、ご飯が粘りつくことに変わりはなかった。

寿司屋を訪ねた翌日、早速凹凸状のモデルを作りご飯をよそってみたところ、つるりとご飯が滑り落ちた。これまでの常識を覆す発見だった。それまでのしゃもじは、表面をできるだけツルツルにきれいに光らせることが商品価値だと思ってきた。ところが、逆に凸凹上の方が、ご飯が見事にくっつかないのである。

ダブルエンボス®加工の発明

「くっつきにくい」しゃもじではなく「くっつかない」しゃもじを作ろうと、金型を何個も鉄くずにしながら納得がいくまで幾多のアイデアを試し続けた。最終的に大きな凹凸の上に更に小さな凹凸を設ける「ダブルエンボス」状の表面加工へとたどり着き、ようやく納得の行く仕上がりとなった。

2002年1月13日の新潟日報において、長岡技術科学大学の柳和久教授が当社のダブルエンボス加工にスポットライトを当てて解説しているが、米粒とダブルエンボス加工のしゃもじの関係は、水分が接着剤の役割を果たして物質を吸収させる「メニスカス現象」と呼ばれる原理によるもので、腐食技術によるしゃもじのデコボコ部先端の幅は平均0.02ミリと、けた違いに小さい接触面の効果で結着力が格段に落ちているのだという。

たちまち大反響、ロングセラー商品へ

寿司屋で出会ったしゃもじにヒントを得てから丸2年の歳月が流れていた。1999年8月全国の主要スーパーと量販店で一斉に発売された後は口コミであっという間に評判が広がり、発売三ヶ月でブームに火がついた。発売以来、ダブルエンボス加工のしゃもじは売上数を伸ばし続け、おにぎり型、すし型、巻きす、お餅を温めるプレートなど様々な用途に広がりながら販売累計4000万個を突破した。独創的な食品技術に贈られる2001年度「安藤百福記念賞」優秀賞に選ばれるなど、身近な技術の応用は全国から高い評価を受けている。

一軒の寿司屋での小さな気付きから生まれた「マジックしゃもじ」。令和の今となっても定番商品としてロングセラーを続け、日本中の食卓に驚きと快適さを届け続けている。


ダブルエンボス®加工の特長

大きな凹凸の上に更に微細な凹凸を設け、ごはん等食材との接着面を少なくすることでこびりつきを防ぐ加工です。当社しゃもじ、おにぎり型、すし型、巻きす、お餅を温めるプレートなどなど多数の商品に採用。ダブルエンボス加工を使用した商品は累計4000万個以上製造、出荷しております。

※取扱い上の注意点

・洗浄の際は、食器用洗剤、柔らかいスポンジをご使用ください。硬いスポンジやタワシなどを使用するとキズが付き、ごはんのつく原因となります。
・ごはんが付きやすくなったら、洗浄後にキッチン用漂白泡スプレーをかけ15〜30分放置し、よく洗い流してください。